平和は社会主義の本性的要求
埼玉大学名誉教授 鎌倉孝夫

 「世界の平和・非核化実現をめざして」というテーマで朝米首脳会談と共同声明の内容、意義、課題について述べたいと思います。
 2018年4月20日に開催された朝鮮労働党中央委員会第七期第三回総会において「人類の共通の念願と志向に合致するように、核兵器なき世界の建設に積極的に寄与しよう」と提起されました。
 朝鮮首脳会談の意義は、世界史的、人類史的にみるならば、はじめて核保有国がみずからの核の廃絶を現実にすすめはじめた画期的なことであるといえます。これが可能である根拠として強調したい点は、朝鮮労働党第七回大会報告で提起された「平和は社会主義の本性的要求である」ということです。第七回党大会報告の第四体系「世界の自主化のために」のなかにつぎのような文があります。
 「戦争のない平和な世界を建設するのはわが党の闘争目標であり、地域と世界の平和と安全のためにたたかうのはわが党と共和国政府の一貫した立場です。平和は社会主義の本性的要求であり、常時核戦争の危険のなかで暮らしてきた朝鮮人民の念願です。わが党と共和国政府は、アメリカによって強要されている核戦争の危険を強大な核抑止力に依拠して根源的に終息させ、地域と世界の平和を守るために力強くたたかうでしょう」
 平和は社会主義の本性的要求であるというのは、わたしは社会主義の本質にもとづく要求であると理解しています。
 朝鮮が世界人民にむけて地域と世界の平和をきずくことを提起できる根拠は、朝鮮が社会主義体制を堅持したことにあります。朝鮮は社会主義体制にもとづいて世界において核廃絶を現実のものにしていこうとしています。
 朝鮮が社会主義を堅持したということを柱にして、世界の平和、非核化実現について述べたいと思います。

一、朝米首脳会談共同声明の画期的意義

⑴6月12日の朝米首脳会談の共同声明自体、大きな意義があります。
 朝鮮にとってアメリカ帝国主義は不倶戴天の敵であり、こんにちにいたるまで朝鮮とアメリカは一貫して対峙してきました。アメリカ帝国主義と朝鮮民主主義人民共和国の両首脳が握手をし、対話をし、意思統一を基盤とした共同声明を発表したことは、それだけでも歴史的な意義があります。
 共同声明で謳われている内容でもっとも基本となることは、「新たな朝米関係の樹立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信しつつ、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できると認識」したことです。信頼醸成、信頼関係を相互に確立していくことこそが、核なき世界、世界の平和を実現していく基になるということが共同声明に盛りこまれていることは決定的な意義だといえます。
 共同声明にはまた「新たな朝米関係の樹立と朝鮮半島における恒久的で強固な平和体制の構築に関する問題について包括的で深く、率直な意見を交換した」と記されています。
 そしてトランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全保証を約束した、としています。日本のマスコミは、「安全保証」を「体制保障」と意図的に訳しています。安全保証とは、敵対視せず、戦争行為をしない保証です。
 金正恩委員長は朝鮮半島全体の完全非核化への強固で揺るぎない約束を再確認したとし、新たな朝米関係の確立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できると認識し、四点が合意されました。
 一つ目は、両国民が平和と繁栄を切望していることに応じ、新たな朝米関係を樹立するということです。ここで強調したいのは、平和は首脳だけではなく両国人民の要望であり、切望しているという点です。
 二つ目は、朝鮮半島で持続的で安定した平和体制をきずくためにともに努力するということです。
 三つ目は、2018年4月27日に採択された板門店宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化にむけて努力することを確約したということです。朝米首脳会談で、朝鮮南北首脳で合意した「宣言」を再確認した。このことも重要な意義をもつといえます。
 四つ目は、戦争捕虜および行方不明者の遺骨発掘と身元が確認された遺骨の即時返還についてです。
⑵マスコミのあやまった論調にたいして、朝鮮側からは七月七日付で朝鮮外務省スポークスマン談話が発表されています。
 朝鮮側は、朝米関係改善のための多面的交流を実現する問題、朝鮮半島での平和体制構築のために、まず朝鮮停戦協定六五周年を契機に終戦宣言を発表する問題、非核化措置の一環としてICBM(大陸間弾道ロケット)の生産中断を物理的に実証するために高出力エンジン試験場を廃棄する問題、そして米軍の遺骨発掘のための実務協商を早急にはじめる問題などを提起しました。
 しかし米国側はシンガポールにおける首脳の対面と会談の精神に背き、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)だの、核施設の申告だの、検証だの一方的で強盗さながらの非核化要求だけを持ちだしたと指摘しています。ポンペオ米国務長官は同月8日、来日して日米韓外相会談をおこないCVIDの確認をし、非核化がすすまない以上は「制裁」圧力を強めるべきだとまったく朝米合意の内容と異なることをおこなっています。
 朝鮮外務省スポークスマンはつぎのように述べています。
 「米国側は今回の会談で一つ二つの合同軍事演習を一時的に取り消したことを大きな譲歩のように宣伝したが、一挺の銃も廃棄せず、すべての兵力を従前の位置にそのままおいている状態で演習という一つの動作だけを一時的に中止したのは、いつであれ、任意の瞬間にまた再開されうる可逆的な措置として、われわれがとった核実験場の不可逆的な爆破廃棄措置に比べれば対比すらできない問題である。」
 米国側は古い方式をそのまま維持しようとしているのです。米国側が会談において最後まで固執した諸問題は、過去に米国の前政権が固執して対話を台無しにし、不信と戦争の危険だけを増幅させたガンのような存在である、新しい時代、新しい共同声明にもとづいてとらえようとしていないと指摘しています。
 朝米間の根深い不信を解消して信頼を構築し、失敗だけを記録した過去の方式から大胆に脱し、規制に縛られない、まったく新しい方式で解決していくこと、信頼醸成を優先させながら、段階的に同時行動の原則にもとづいて、解決可能な問題を一つずつ解決していくことが朝鮮半島非核化実現のもっともはやい近道である、その第一歩として朝鮮戦争終結宣言を提起したのです。米国側はこの問題に真剣にとりくもうとしませんでした。それどころか完全非核化、CVIDを持ちこみ、対話をこわしたのが今回のポンペオ国務長官の対応なのです。
 新しい朝米関係を確立するということが重要な点です。新たな関係、従来のガンをなくし、新たな関係をきずくということが朝鮮外務省スポークスマン談話に明確にされています。
 朝米首脳会談共同声明において「板門店宣言」の再確認がおこなわれました。朝鮮労働党第七回大会報告の第三体系「祖国の自主的統一のために」のなかで明確にされた内容が板門店宣言で明確に確認されました。
 すなわち民族自主の原則確認による自主、平和統一、そして軍事的緊張状態を緩和し、敵対行為を全面中止し、そして終戦宣言をおこない、それをふまえて休戦協定を平和協定に転換させ、核のない朝鮮半島を実現していくという内容になっています。これをトランプ大統領も朝米首脳会談共同声明において再確認しているのです。したがって終戦宣言をおこなうというのは信頼関係形成、非核化前進のための必要不可欠な一歩であり、条件なのです。
⑶こんにちの体制にたいして批判的立場に立っているいわゆる左翼の人についてみると、朝米首脳会談共同声明に関して一定の評価をする人もいますが、正しく理解できず、批判する人も少なくありません。朝鮮民主主義人民共和国に関して朝鮮脅威論に同調し、朝鮮がなぜ核兵器を開発・保有しなければならなかったのかを理解しようとしないで、朝鮮が核兵器を持ったこと自体を批判するなどの認識が根強くあります。
 朝鮮は責任ある核保有国として核拡散はさせない、信頼関係が醸成されれば核は廃絶すると何度も明白にしています。なぜ朝鮮が核を保有して、アメリカの戦争策動にたいして対決しなければならなかったのかといったことへの理解はまったくありません。ソビエトが崩壊し、中国、ベトナムが市場経済化していく過程で、朝鮮は断固として社会主義を堅持しました。その社会主義堅持の過程において理論的、思想的、そして現実の政策推進における苦労は想像を絶するものがあったと思われます。
 なぜソビエトが社会主義を堅持できず崩壊したのか、その原因や本質について金正日総書記の著作「社会主義への誹謗は許されない」、「社会主義は科学である」などをくりかえし学習することによって再確認する必要があります。
 朝鮮は他の社会主義国が崩壊し、資本主義経済を導入しようとも社会主義を堅持してきました。アメリカは朝鮮社会主義を崩壊させようとたえまなく策動しています。アメリカは相手国と合意しながら、意図的に合意を破棄し、核によって先制攻撃をおこなう寸前の段階にまで戦争の危機をつくりだしてきたのです。それを、核を持つことによって戦争をさせない体制をきずく方向に朝鮮がむかったことにたいして、〝核兵器を持つとよいことがある〟などと無責任な評論をしても事態を正しく理解することはできません。
 いうまでもなく〝核を持てばよいことがある〟などというメッセージを流布させてはならないと思います。
 朝米首脳会談合意の内容と意義、事態の本質をよく理解していないのです。とくに中国との協力関係に関して、市場経済化を推進していく方向に朝鮮が舵をきったととらえているのですが、中国自体市場経済化によって生じた社会的問題(生活抑圧、格差拡大、環境悪化等)に対処しなければならなくなっているのです。
 わたしたちは朝米首脳会談合意について、さらに板門店宣言の再確認に関して、明確に事態の本質をとらえなければならないと思います。

二、朝米首脳合意、平和、非核化をもたらした要因・背景そして課題

⑴朝鮮の一貫した朝鮮半島非核化希求

①2013年3月の朝鮮労働党中央委員会総会において経済建設と核武力建設の並進路線が提起されました。核抑止力は国と民族の自主権を守り、戦争を防いで、平和を守るための正義の手段であると明確に提起しています。
 朝鮮は核を持つことによって、世界の非核化の実現に寄与していくことを明確にしています。「われわれは、責任ある核保有国としてアジアと世界の平和と安全のため積極的に努力し、国際社会のまえに担った核拡散防止義務を誠実に履行して世界の非核化実現に寄与するでしょう」と述べています。
 並進路線にもとづいて四月一日には法令「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについて」が採択されています。このなかで重要なポイントを指摘しておきます。
 第四項「敵対的な他の核保有国がわが共和国を侵略したり攻撃したりする場合、それを撃退し、報復攻撃を加えるために朝鮮人民軍最高司令官の最終命令によってのみ朝鮮の核は使用できる」
 第五項「敵対的核保有国と結託して、わが共和国にたいする侵略や攻撃行為に加担しないかぎり、非核保有国に核兵器を使用したり、核兵器で威嚇したりしない」
 第九項「核戦争の危機を解消し、積極的に核兵器のない世界を建設するためにたたかい、核軍備競争に反対し、核軍縮のための国際的な努力に協力する」
 この法令でも核は、核攻撃にたいする抑止力であり、信頼関係形成をとおして核戦争の危機が解消されるならば、核軍縮のために前進していくことが明確にされています。
 いま国連での核兵器廃絶多国間交渉の批准が各国ですすめられています。核兵器廃絶多国間交渉の決議に朝鮮は核保有国中唯一、賛成しています。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、イスラエルは反対しています。日本も反対しています。中国、インド、パキスタンは核を保有していますが、棄権しています。朝鮮は2017年時点で直接には参加できないと言っていましたが、すでにこの方向を確認し、推進しはじめたといえます。
②朝鮮労働党第七回大会中央委員会報告の第四項「世界の自主化のために」においても戦争のない平和な世界を建設するためにたたかうことが提起されています。2018年の「新年の辞」においては国家核武力完成の大業が成就されたと述べています。アメリカ帝国主義の先制核攻撃を許さない国防力を確立したということです。アメリカ帝国主義のいかなる核威嚇も粉砕し、対応することができ、アメリカが無謀な火遊びをできないように制圧する抑止力を確立したということです。
 「アメリカ本土全域がわれわれの核打撃射程圏にはいっている、核のボタンはつねにわたしの事務室の机の上に置かれている、これは威嚇でなく現実である」と金正恩委員長は言っています。そして今年は朝鮮民主主義人民共和国創建70周年、南朝鮮では冬季オリンピックが開催される意義ある年である、それを契機にして南北の対話、交流の前進をはかっていこう、平和、祖国統一を確実に前進させていこうと提起しました。
③朝鮮労働党中央委員会第七期第三回総会でも核武力が完全に確立したことが明確にされています。
 金正恩委員長は、「核開発の全工程が科学的に、順次的におこなわれて、運搬打撃手段の開発も科学的におこなわれて、核の兵器化の完結が検証された条件のもとで、いまやいかなる核実験と中長距離大陸間弾道ロケットの試射も不要になり、北部核実験場も自己の使命を果たしたと強調しました。そして、われわれの力をわれわれのもとめる水準にまで到達させ、わが国家と人民の安全をたのもしく保障できるようになった基礎の上で、人類の共通の念願と志向に合致するように、核兵器なき世界の建設に積極的に寄与しようとするわが党の平和愛好的立場を明らかにした」と述べています。核兵器なき世界の建設に積極的に寄与しようということが明確にうちだされています。
④わたしが強調したいことは、1990年代の危機的な状況、ソビエト崩壊、そして市場経済化の推進がすすむなかで、朝鮮が断固として社会主義を堅持したことです。これにたいしてアメリカは社会主義崩壊をめざして執拗な攻撃を仕掛けてきました。しかし、朝鮮はアメリカの攻撃にびくともしないで対抗する核戦力を確立したのです。
 アメリカが朝鮮を核攻撃すると報復されてたいへんなことになるので攻撃することができないという状況をアメリカに確認させたうえで、朝鮮は核廃絶にむかっていこうとしています。全世界の人民、朝鮮人民が一致して求めている核廃絶を朝鮮は現実にすすめていく宣言をおこなったわけです。社会主義体制を固めて全人民が社会主義建設に邁進していこうという意志があるからこそ、核保有国が核廃絶をみずから推進していくことが可能になったのです。
 核をふくめて軍備は莫大なカネがかかります。核は抑止力という点からいえば、相対的に費用は安上がりですむかもしれません。それでも大変な資金力、資源が必要です。
 社会主義体制では戦争で利益を得るものはいません。資本主義社会には戦争をして軍備を拡大しカネ儲けしようとする者がいて、つねに戦争をあおり、平和を阻止しようとします。社会主義体制のもとでは人民が一致団結して戦争をやめることができます。戦争に反対するのはみんなの希望なのです。
平和は社会主義の本性的要求であることを社会主義体制を堅持しているからこそ明確にしえたといえます。非核化を現実に推進することができるのも社会主義堅持がその根拠になっていることを強調しておきたいと思います。

⑵首脳会談・共同声明の背景・要因(米・韓・日・中に関して)

①朝鮮の実力を認めざるを得なくなっているトランプ大統領
 国連の舞台で、朝鮮を「完全に崩壊する」と言ったトランプ大統領は、朝鮮の実力を認めざるを得なくなりました。アメリカが先制攻撃をすると即座に反撃されます。アメリカの本土まで大打撃をうけるかもしれません。これは現実の脅威だとトランプ大統領は認識したのです。どれだけ戦争の脅しをかけても、「制裁」圧力を強化しても、朝鮮はひるみません。逆に核戦力を完成させる方向に走らせたのです。
 朝鮮が非核化にむかっていることについて、朝鮮の政策転換である、圧力を強化したから朝鮮は屈服して非核化の方向に大転換したととらえている人がいますが、制裁圧力強化の効果はまったくありません。むしろ逆効果です。
 しかしトランプ大統領は帝国主義者であり、トランプ大統領特有のディール観念があります。すなわちペイしない、得にならない行動はやらないという資本家の精神、資本主義の精神の体現のようなものであり、カネになるものは何でもやるけれど、カネにならないものはやらない、損することは相手におしつけるというものです。
 朝鮮が脅威だ、軍事力強化が必要だ、軍事基地が必要だと安倍首相がいつまでもそういうとらえかたでいるならば、だったら自分でカネをだしなさい、と。安倍はトランプのATMだということになります。トランプ大統領はそういう感覚を持っていると思います。ポンペオ国務長官の行動をみるかぎり、朝米首脳の合意を阻止しようとする勢力が確実に存在するだけではなく、トランプ大統領にたいして圧力をかけていく帝国主義勢力、その基盤になっている 軍産複合体、死の商人の圧力があるといってよいと思います。
 資本主義では相手を殺しても自分がカネを獲得できればよいのです。戦争で大量の殺人をしながら、それをカネ儲けの手段にするのが死の商人です。アメリカ経済自体が死の商人化している現実があります。そこから戦争要因が生じるのです。朝米首脳会談合意の前進をはばもうとする勢力の動きがでてくることを考えなければなりません。
 好戦分子のボルトンはイラクを破壊しフセインを殺し、リビアのカダフィ大佐も虐殺しました。CVIDを実行したのがボルトンでした。ボルトンが大統領補佐官としてトランプ政権にはいっているのです。さらには朝鮮脅威論をあくまでもすてないで、圧力強化、敵視を基盤にしてそれを言いつづけているのが安倍首相です。安倍首相がボルトンやペンスなどに圧力をかけ、共同声明合意の推進をおさえこんでいます。
 朝米首脳会談の合意をはばんでいる勢力にたいして、いかに朝鮮を信頼し、協調していくかがわたしたち自身の課題になっていると思います。

②韓国民衆の朝鮮半島平和、自主統一への強力な願望、運動、キャンドル革命の力
 文在寅大統領の平和・統一希求は、「板門店宣言」の推進、現実化を果たした決定的な要因の一つです。
 しかしだからこそ韓国内において保守・反動勢力、アメリカや日本の帝国主義勢力と一体となって結託している部分をどうおさえるか、文政権はきびしい課題を抱えています。
 アメリカの軍事基地、とくにサード(THAAD、終末高高度防衛ミサイル)を撤収・撤廃する課題、さらに朝鮮敵視の国家保安法を撤廃する課題があります。アメリカ帝国主義の圧力、安倍政権の朝鮮敵視からくる圧力を文政権がどこまで克服できるか、われわれも韓国・朝鮮民衆と協力することによって文政権が板門店宣言実行の方向に力をつくせるように運動をすすめなくてはなりません。
 2018年9月19日、文在寅大統領と金正恩委員長は「九月平壌共同宣言」に合意・署名しました。「板門店宣言」を現実具現化し、軍事的敵対関係の終息を、朝鮮半島全地域での実質的な戦争脅威の除去、根本的な敵対関係解消につなげるという、画期的宣言です。朝鮮半島は確実に平和にむかって前進しています。
③中国 習近平政権の強力な協力・協調
 中国が朝鮮の改革開放をバックアップしているととらえている人たちがいます。
 非核化を推進するなかで「制裁」が解除され、交流が拡大していけば、市場経済がはいりこんでくることは確かだと思います。金正恩委員長と習近平主席との三回にわたる朝中会談のなかでどういう話しあいがおこなわれたのか、どういう協力・協調関係なのかがたいへん重要です。
 三回にわたる朝中首脳会談と合意では、朝鮮と中国の関係について朝中は運命共同体であり、信義の関係にあると言っています。習近平主席は朝鮮労働党中央委員会第七期第三回総会で採択された方針である朝鮮半島の非核化と経済建設を全面的に支援することを明らかにしています。朝鮮が経済建設に総力を集中することを全面的に支援すると同時に、「制裁」解除にむけて積極的にはたらきかけていくことも確認されました。
 これにたいして金正恩委員長は、市場経済化にともなう拝金思想、貧富の格差等の問題に懸念があると述べたと新聞で報道されています。拝金思想=ブルジョア的利己主義をいかに規制するかという点で中国との協調、同意を確認したといってよいと思います。
 中国共産党は、いまたいへんな状況にあります。中国では市場経済化をすすめるなかで、金融中心の資本が膨張し、貧富の格差拡大、農民の失業化、社会保障問題、貧困、失業問題から来るさまざまな矛盾の噴出があります。ストライキ、デモも頻発しています。鄧小平路線からはじまった改革開放、市場経済化推進にともなう弊害がはっきりあらわれてきたということです。是正しなければならない重大な課題を中国共産党が明確にしてきたのです。どういう方向でこの弊害を克服していくか、中国自身が問われています。
 2018年3月5日、中国全人民代表大会で習近平主席が演説した内容について、わたしは市場経済化の弊害を是正し、社会主義建設にむかって、積極的に前進していこうという方向がうちだされたものとして評価したいと思います。
 共産党が党・政府だけではなく軍・経済・社会・文化をふくむ全社会的領域で主導的役割を果たすことが明記されています。
 新聞、出版、映画等の党中央宣伝部による統一的指導についてもうちだされています。これを思想の強制とか独裁とか批判する部分もありますが、思想統一、そして党、政府の戦略を明確にし、それを全人民が共有するという方向にむかわざるをえないということではないかと思います。
 経済政策についても資源配分における市場の「基礎的役割」を削除しました。これは鄧小平が入れたものでした。そして党が市場経済を統制しながら民生重視、貧困克服、社会的公正、環境改善を積極的にすすめると言っています。またマルクス主義の中国への適用を再確認しています。中国特色社会主義による社会主義強国建設という方向が明記されました。
 社会主義建設をすすめる朝鮮とさらに積極的に協力、連帯してすすんでいこうという点で、金正恩委員長と習近平主席が基本的に合意したととらえてよいのではないかと思います。
 反帝国主義、自主をふまえて社会主義建設をゆるぎないものとして前進させていこうという合意ができたうえでの非核化の前進ととらえたいと思います。ここから中国自身が核廃絶にむかって進展していくことができるか、ということが問われているのではないかと思います。中国が核廃絶にむかうということをふまえアメリカ自身の核をなくしていく全世界の動きが推進されていけば、朝鮮のめざす方向を現実化できるのではないかと思います。

三、平和、非核化確立をわたしたち自身の課題に

 2018年10月24日、安倍晋三首相は、所信表明演説をおこないましたが、そのなかに「戦後日本外交の総決算」という言葉があります。内容としては、東南アジア諸国連合、オーストラリア、インドをはじめとした基本的価値を共有する国々とともに、日本が太平洋からインド洋にいたる広大な地域に確固たる平和と繁栄を築きあげていくということです。基本的価値観を共有する国には朝鮮も中国もはいっていません。
 つづけて北東アジアでは冷戦時代の構造がいまなお置き去りにされたままになっていると言っています。それは何を意味するかというと、社会主義朝鮮の存在です。ここに、安倍首相の本音が示されています。朝鮮の社会主義体制を崩壊させることによって冷戦を完全に終わらせ、戦後外交の総決算をするのだと言っているのです。これを日米韓の結束のもと、国際社会と連帯しながらおしすすめていくと言っています。
 朝鮮の完全な非核化をめざすと言っていますが、それはCVIDです。CVIDによって本当に朝鮮の体制を崩壊させようとしているのです。
 その後で安倍首相は、わたし自身が、金正恩委員長とむき合わなければならないと拉致問題を出していきます。むき合うのであれば、朝鮮敵視、体制崩壊策動の魂胆を反省しなくてはなりません。しかし、安倍首相には、朝鮮を植民地化し、人権をふみにじってきたことについての反省はまったくありません。現在韓国では日本帝国主義の植民地の下での徴用工の人権侵害に対し、補償すべきだという最高裁判所の判決が出されていますが、安倍首相は「ありえない」といっています。これは平和形成を阻止する行動といわなければなりません。
 朝米首脳会談で合意されたことは、いままでは敵であっても、帝国主義であっても信頼関係が形成されれば、平和関係をきずける、核を持たなくてもよい関係をきずけるということです。
 わたしたち日本人民の課題を明確にしなければなりません。わたしたち日本人が朝鮮蔑視、朝鮮脅威論をどう克服するのか。自信をもって広範な人々に朝鮮脅威論などはない、それは作為であり、虚報だということを広めていかなくてはならないと思います。これがわたしたちができる基本的課題です。平和にむけてわたしたちができることを追求しなければならないと考えています。
 何よりも日本のなかにあるマスコミをふくめた朝鮮にたいする偏見を克服しなければならないし、そのよいチャンスだと思います。
 平和、非核化を妨げている要因、勢力をわたしたち自身はっきり認識する必要があります。朝鮮の核は侵略の核ではありません。侵略の核を持っているのは帝国主義勢力です。帝国主義は危機に陥っています。危機に陥ればみずから滅亡し、みずから崩壊するかといえば、しないです。帝国主義は抵抗勢力をだまし、悪あがきをしながら生きようとしています。それがトランプ大統領にあらわれている支離滅裂さであり、だからこそ逆に平和にむかってそれを利用できるということ、帝国主義の方向をおさえこむことが可能だととらえることもできると思います。何よりアメリカの人民大衆自体は決して戦争を望んでいない、平和を希求しているのです。
 帝国主義の侵略、戦争を抑える力は反帝自主の各国人民の力、協力・連帯の力です。それ以外にないと思います。反帝自主の力の基礎を提起している中心は朝鮮だといえます。非核、平和は全人民の要求です。全人民の要求を主導し、実行しているのが社会主義朝鮮です。平和は社会主義の本性的要求であるということを実証しつつあるのが朝鮮です。わたしたち自身も社会主義をめざして前進していかなければならないと思います。

(2018年7月23日のチュチェ思想国際研究所定例研究会における講演に加筆)