自主の道を歩む朝鮮
―朝鮮半島の平和をめざす金正恩委員長―

埼玉大学名誉教授 鎌倉孝夫

金正恩委員長は一貫して朝鮮半島の平和を実現するために積極的にとりくんでいます。朝鮮半島と世界の平和を実現するための金正恩委員長の活動について正しく理解するためには、委員長の著作を深く学ぶ必要があります。

わたしたちが学ぶべき主な著作(①~⑨)を紹介します。

①「経済建設と核武力建設を並進させる新しい戦略的路線」(2013年3月31日。朝鮮労働党中央委員会総会における報告)

関連して、法令「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについて」(2013年4月1日)が発布されています。

②「金日成金正日同志の党の偉業は必勝不敗である」(2015年10月4日。朝鮮労働党創立70周年に際しての報告)

③「朝鮮労働党第7回大会でおこなった中央委員会の活動報告」(2016年5月6日、7日)

④「米大統領演説に超強硬対応措置考慮」(2017年9月21日。金正恩委員長の声明)

2017年9月、10月は、朝鮮をめぐる情勢がもっとも緊張していた時期でした。トランプ大統領が国連演説のなかで、朝鮮の体制そのものを崩壊させることに言及したため、それにたいして金正恩委員長がどのように対抗するのか注目を集めていました。

金正恩委員長は声明をだし、李容浩外相が国連総会で演説をおこない、その後、朝鮮は11月29日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験に成功します。

⑤「新年の辞」(2018年1月1日)

金正恩委員長が「新年の辞」を述べた後、極度に緊張した2017年から、2018年は平和体制確立、朝鮮半島非核化、南北の自主平和統一に向けて急速に現実的具体的な動きが展開されていくようになりました。

2018年の「新年の辞」の内容をさらに具体化したのが、⑥「朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会における報告」(2018年4月20日)です。

この報告にもとづいて南北朝鮮首脳会談がおこなわれ、2018年4月27日、金正恩委員長と文在寅大統領による⑦―1「板門店宣言」が発表されました。

さらに6月12日シンガポールにおいて、金正恩委員長とトランプ大統領による歴史的な朝米首脳会談がおこなわれ、⑧「シンガポール朝米共同声明」が発表されました。そして金正恩委員長と文在寅大統領による⑦―2「9月平壌共同宣言」(2018年9月19日)へとつづきます。

ところが文在寅大統領は2019年11月22日、日本とのGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の終了決定を「条件付きで停止する」と協定を事実上延長する方針を発表しました。文在寅大統領がGSOMIAの破棄方針を覆し、事実上の協定延長を決定したことは、トランプ政権が文在寅政権にたいして強い圧力をかけたことが背景にあるといわれています。朝鮮民主主義人民共和国を敵国とみなすようなGSOMIAは、「板門店宣言」「平壌宣言」の内容に反しています。GSOMIAの事実上の延長には、朝鮮との約束を守り、民族の念願である統一を実現するという自主的な立場はまったくありません。

民族の自主的な立場に立つならば、外部の圧力に屈することなく、断固として「板門店宣言」「平壌宣言」で確認した内容を推進していくのは当然のこととしてあります。「板門店宣言」「平壌宣言」の推進は共和国の人民はもちろん、韓国の民衆みんなが求めていることでもあります。

2018年6月12日、朝米首脳会談において⑧「シンガポール朝米共同声明」が発表されました。

しかし、「朝米共同声明」が発表されてすぐに、当時のボルトン補佐官はリビア方式を提起し、一方的に朝鮮に核放棄を求めたのです。日本のマスコミも一方的に核放棄を朝鮮に求めることが当然であり、朝米首脳会談での合意であるかのような論調で報道しました。

わたしたちは朝米首脳会談の「共同声明」の内容を正確に確認しておく必要があります。「朝米共同声明」の内容に違反したのは誰なのか、またなぜ違反するのかということも正しく理解しなければなりません。

2019年2月27、28日、ベトナム・ハノイにおいて、第2回朝米首脳会談がおこなわれましたが決裂しました。

⑨「最高人民会議第14期第1回会議」(2019年4月10日。施政方針演説)。

以上の著作、文献から重要なポイントについて述べたいと思います。


1、自主、平和確立を一貫して求め現実にすすめている朝鮮民主主義人民共和国・金正恩委員長


⑴「経済建設と核武力建設を並進させる新しい戦略的路線」


2013年3月31日、金正恩委員長は朝鮮労働党中央委員会総会において、「経済建設と核武力建設を並進させる新しい戦略的路線」と題する報告をおこないました。報告のなかで、経済建設と核武力建設を並進させるという新しい戦略的路線が提起されました。

金正日総書記が指導していた1990年代は、アメリカによる朝鮮への核侵略の脅威が最高度に達していました。アメリカの核侵略の脅威に徹底的に対抗するために、核武力建設を中心とした先軍政治が強調されました。

金正恩委員長が指導するようになってから、核武力建設をおこない帝国主義者の侵略を許さないという路線を堅持しながらも、同時に、人民生活を豊かにするために社会主義経済建設を強力に推進していくことが提起されるようになりました。金正日総書記の提起した政治路線をかえたわけではなく、重点を経済建設推進におくようにしたことを意味しており、重要な戦略路線の提起をおこないました。

1989年、ベルリンの壁の崩壊を契機に東ドイツ社会主義が崩壊し、以後なだれをうつように、ソビエト・東欧社会主義が挫折しました。

1990年、ゴルバチョフ書記長の時代に、ソビエト社会主義連邦はソビエト共産党の主導性が崩壊し社会主義体制の挫折にいたりました。

中国においては、1978年12月から鄧小平国家主席を中心に「改革開放」政策がすすめられてきました。「改革開放」政策は、中国国内体制の「改革」および対外「開放」政策のこととされますが、内容的には資本主義市場経済を導入することを意味します。

東ドイツを皮切りに東欧社会主義がつぎつぎに崩壊し、ついにはソビエト社会主義も崩壊してしまった状況をみた中国は、鄧小平路線によってどのように転換していったのでしょうか。中国は本格的に資本主義市場経済を導入し、資本主義化をすすめていくようになりました。市場経済の導入により中国は、事実上、社会主義体制を転換し資本主義への歩みを開始したといえます。

ゴルバチョフ書記長は、党の自由化、多党制を認めることにより、結局、ソビエト共産党の指導性を堅持することができなくなっていきました。党の自由化、多党制にたいして、鄧小平主席は中国共産党の一党支配を堅持し、ブルジョア政党はいっさい認めないことを明確にしながら、思想的には社会主義を堅持していく路線を選択しました。それゆえ中国は市場経済を導入し生産力を急速に高めていく政策を積極的におこなったにもかかわらず、崩壊することなく独自の建設をすすめ、いまにいたっています。

しかし、中国においては、資本主義的な生産力が高まり、急速に資本主義化がすすんでいます。資本主義国で株価が上がれば上海の株価も上がり、資本主義国の株価が暴落すれば上海の株価も暴落します。こんにち中国の大資本は、世界市場において、アメリカや日本、ドイツなどの資本と競争している状況があります。

トランプ大統領は、中国が覇権支配をおこなっていると公然と批判するなど、いま中国とアメリカの熾烈な経済戦争がはじまっています。

ソビエト・東欧社会主義が崩壊するという状況のなかで、帝国主義勢力はあとは朝鮮社会主義を崩壊させればよいと考えました。当初アメリカ帝国主義者は、制裁圧力を強めれば朝鮮はおのずと崩壊すると高をくくっていました。

さらに1993、94年、クリントン政権は、核を使って朝鮮を崩壊させてもよいと考え、社会主義朝鮮瓦解策動を最高度に強めていきました。

ソビエト・東欧諸国がみずから社会主義を放棄するなか、金正日総書記は社会主義を堅持する路線を選択しました。金正日総書記は、西側諸国は社会主義が崩壊したというが、崩壊したのは社会主義ではない、社会主義をゆがめてしまった体制が崩壊しただけである、朝鮮式社会主義は絶対にゆるがない、朝鮮は人類の理想である社会主義を堅持しなければいけないと明確にうちだしました。さらに人民大衆中心の社会主義以外に社会主義発展の展望はないとし、朝鮮が人民大衆中心の社会主義を堅持する道を歩む決意を明確にしました。

この時期、金正日総書記は社会主義に関する重要な著作を発表しています。たとえば「社会主義にたいする誹謗中傷は許されない」(1993年3月1日)、「社会主義は科学である」(1994年11月1日)です。当時の総書記の論文は、ソビエト・東欧社会主義の崩壊の原因は何であったのか、どのような教訓を得なければいけないのかといったことを明らかにしたものです。

ソビエト社会主義が崩壊した後、エリツィン大統領が導くロシアでは、資本主義諸国から見境なく外国資本を導入し、市場経済化、資本主義化を強引にすすめました。資本主義の導入によりコルホーズ、ソホーズも解体し、集団的な農業はほとんど壊滅するという状況になりました。市場経済を導入することにより、カネがすべてという利己主義的な「拝金思想」が社会全体に浸透し、食うか食われるかという弱肉強食の競争原理がはびこり、おカネ中心の社会になってしまいました。

資本主義の導入は社会主義を崩壊させることになるため絶対に拒否しなければならない、帝国主義による核侵略戦争の脅しに対抗して、社会主義を堅持しつつ戦争を阻止し平和を死守するというのが金正日総書記の選択した路線だったのです。

ここで核による侵略戦争の現実の危機にたいする対抗力をもつ必要がでてきます。物理的な対抗力は核武力です。朝鮮にしてみれば、本来ならば核はもってはならず、もちたくもないものです。しかしアメリカ帝国主義の核による侵略戦争がさしせまっているときに、対抗する手段として核武力を保有することは切迫した課題となり、やむをえないということになります。

金日成主席は一貫して核武装に反対でしたが、核によって既存の社会主義を崩壊させたアメリカ帝国主義が、つぎは朝鮮社会主義を崩壊させようとする動きに対抗しなければ、国家の自主権、生存権を守ることができないのです。帝国主義の核侵略戦争に対抗する「宝剣の力」として、核武力に頼らざるをえない状況が朝鮮にはあったということをみなければなりません。朝鮮は核実験をおこないながら、ICBMも開発するようになり、アメリカが攻撃することができない状況をつくりだしたのでした。

朝鮮は、核武力建設は国の自主権、生存権を守るためのやむをえない手段、帝国主義の侵略に対抗する武器として位置づけたのです。

2013年4月1日、法令「自衛的核保有国の地位をさらに強固にすることについて」が発表されます。発表された法令はつぎのような内容になっています。

①共和国の核兵器の性格

「共和国にたいするアメリカの持続的に増大する敵視政策と核の脅威に対処して、やむをえず備えることになった正当な防衛手段である」

②共和国の核武力の使命

「核武力は世界の非核化が実現されるまで、わが共和国にたいする侵略と攻撃を阻止撃退し、侵略の本拠地にたいする殲滅的な報復攻撃を加えることに服する」

③核兵器の強化原則

「敵対勢力の侵略と攻撃の危険の重大さに備えて、核抑止力と核報復攻撃力を質、量的に強化する」

④核兵器の打撃対象、核兵器の発射命令権

「敵対的な他の核保有国がわが共和国を侵略したり、攻撃したりする場合、それを撃退し報復攻撃を加えるために、朝鮮人民軍最高司令官の最終命令によってのみ使用できる」

⑤核兵器攻撃除外対象国

「敵対的な核保有国と結託してわが共和国にたいする侵略や攻撃行為に加担しないかぎり、非核国にたいして核兵器を使用したり、核兵器で威嚇したりしない」

⑥核兵器の安全な保管管理、核実験の安全性保障 (省略)

⑦核兵器と技術 (省略)

⑧共和国の核保有の正当な立場

「敵対的な核保有国との敵対関係が解消されるにともない、相互尊重と平等の原則にもとづいて、核拡散防止と核物質の安全な管理のための国際的な努力に協力する」

⑨非核世界の建設、核軍縮のための共和国の立場

「核戦争の危険を解消し、究極的に核兵器のない世界を建設するためにたたかい、核軍備競争に反対し、核軍縮のための国際的な努力を積極的に支持する」

金正恩委員長の核に関する政策は、この法令の内容で一貫しています。

アメリカ帝国主義に対抗する手段として核はもたざるをえないが、すすむべき方向としては、核の廃絶、核戦争の阻止、そして究極的に核兵器のない平和な世界を建設することを朝鮮は実現していこうとしているのです。

並進路線に関連しては、経済建設路線に全力を投じることが提起されています。

核武力は最小の費用で最大の抑止力を発揮できるものです。核兵器は通常兵器のように、膨大な資金、技術を必要とせず、効果的に抑止力、自衛力をもつことができます。そして核武力をもつ真の目的は経済建設に全力を投入していくためなのです。

並進路線の主要な内容は、社会主義経済発展のために全力を投じることによって、人民生活向上を実現していくということです。


⑵ 朝鮮労働党第7回大会における中央委員会活動報告


2016年5月、朝鮮労働党第7回大会が開催され、金正恩委員長が中央委員会活動報告をおこないました。

金正恩委員長は、第7回党大会活動報告で社会主義偉業を完成し、人民大衆の自主性を完全に実現するために、全社会を金日成金正日主義化することを提起しています。全社会の金日成金正日主義化により、朝鮮人民の思想統一を確立し、自力自強により経済建設をすすめるとしています。

朝鮮の社会主義建設、経済建設の目的は人民生活向上と人間的な文明文化の建設です。

人民生活の向上と人間的な文明文化の建設をめざすためには、全人民の思想意識を統一することが必要であり、全社会の金日成金正日主義化ということになります。

また、金正恩委員長は朝鮮労働党第7回大会の報告のなかで民族自立・大団結による南北朝鮮の自主、平和統一を実現することを提起しています。

金日成主席は「南北共同声明」(1972年7月4日)において、朝鮮の統一について重要な原則を提起しました。自主、平和統一、民族大団結です。

民族大団結は、南北の相互尊重、和解、信頼形成が基盤になって、思想や体制が異なっていても統一を実現することができるという立場です。民族大団結の立場に立つうえで決定的に重要なのは、アメリカやアメリカを後押しする日本などの外部勢力の介入を拒否しなくてはいけないということです。

第7回党大会報告の第4体系「世界の自主化のために」においては、アメリカ帝国主義の主権侵害、核戦争による覇権支配策動にたいして、すべての国、民族の自主権、平等を保障する世界を確立しなければいけないと提起しています。

アメリカは主権国家の自主権を侵害し、アメリカに従属する傀儡政権をでっちあげて支配しようとします。たとえばイラクやリビアにたいして制裁解除とひきかえに武装解除を要求した後、体制を崩壊させました。以降、イラクやリビアは内乱がつづき、いまだに混乱しています。

アメリカ帝国主義は、アメリカに従属しない国にたいして武力を放棄しろ、放棄するならば制裁を解除し経済援助をするなどと甘言を弄します。しかし、ひとたび武力を放棄するならば、アメリカ帝国主義は即座に武力で体制崩壊させることを現実におこなってきたのです。武装解除をおこなったとたん、武力で体制を崩壊させる現実があるなかで、アメリカによる侵略戦争を防ぎ、各国各民族の自決権を守り、平等の世界を確立することが、反帝国主義の決定的に重要な世界戦略となります。

つぎに反帝国主義・自主の連帯したたたかいが必要だとしています。とくに社会主義を堅持している国や社会主義を志向している国であるキューバ、ベトナム、中国などが反帝国主義、自主の旗じるしで連帯していくことが重要だと指摘しています。社会主義は崩壊していません。社会主義を堅持している国、社会主義を志向している国との反帝国主義・連帯が決定的に重要であるということを提起しているのです。

また帝国主義国と軍事同盟を結んでいない国を非同盟国といいます。朝鮮は非同盟諸国会議に加入しており、非同盟運動の強化発展をすすめ、反帝国主義・自主のたたかいを強めていくことを提起しています。

朝鮮労働党の対外政策の基本理念として、自主、平和、親善がうちだされています。朝鮮の自主権を尊重し、友好的に対応する国との親善協力関係を前進させ、地域の平和、朝鮮半島の平和、東アジアの平和、さらに世界の平和と自主化を実現していくことが提起されています。

過去、朝鮮にたいして敵対的な関係にあった国であっても、朝鮮の自主権を認め、敵視を撤回し、平和的関係を結んでいこうとする国との連携をすすめていくということが明確に示されています。

第4体系のなかで重要なのは、「平和は社会主義の本性的要求である」という言葉です。これは社会主義は平和を要求しているということ、平和を実現していくことが社会主義の本性であるということを意味しています。また平和のなかで社会主義は発展していくということも示しています。

平和は社会主義朝鮮がめざすべき方向であること、それを現実に実現する方策が明確に示されました。


⑶トランプ政権登場のもとで


トランプ大統領は2017年9月19日、国連総会演説において朝鮮解体発言をおこないました。もともとトランプ大統領は、朝鮮や朝鮮をめぐる状況についてほとんど何も理解していません。

クリントン大統領も就任当初は朝鮮について何も知りませんでしたが、いろいろと研究し検討するなかで、政権の最後の時期に、オルブライト国務長官を訪朝させ、2000年10月、朝米共同コミュニケを発表するにいたりました。朝米共同コミュニケでは、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に転換し、平和的関係を結ぶことについて合意しました。

しかし2001年、ブッシュ政権になると、朝米共同コミュニケの合意はすべてご破算になってしまったのです。その後、2009年に成立したオバマ政権も、朝鮮とはいっさい対話をせず一方的に朝鮮に核放棄を要求しつづけてきました。

以前の米政権が朝鮮との関係を何ももとうとしない状況のなかで、トランプ政権が登場します。

トランプ政権が登場した後、2016年1月、朝鮮は水爆実験に成功し、2017年7月にはICBM発射実験も一定の成功をおさめ完成間近だという状況になりました。

トランプ大統領は、朝鮮について何も知らず見識もないなかで2017年9月19日、国連総会で朝鮮を誹謗中傷する演説をおこないました。トランプは演説のなかで、「北朝鮮の金正恩体制は向こうみずで下劣だ。核・ミサイル開発を無謀に追求し、全世界に脅威を与えている」と発言しました。

また「北朝鮮は自国民を飢えさせ、弾圧している。罪のない米国民を拘束、スパイ教育のために海岸から13歳の日本人の少女(横田めぐみさん)を拉致した」と発言しました。安倍首相がトランプ大統領に、拉致問題解決に協力してほしいと何度も懇願していました。安倍首相の懇願を真に受けたトランプ大統領は低劣な演説をおこなったのです。

さらにトランプ大統領は、「北朝鮮が敵対的な姿勢をやめるまで、孤立させるために、すべての国が連携するときだ」「北朝鮮の脅威によりアメリカが自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に崩壊するしか選択肢がなくなる」と言い放っています。

トランプ大統領は主権国家である朝鮮民主主義人民共和国を崩壊させるという言葉を公的な場で使い、朝鮮の指導者の尊厳を冒涜する内容の演説をおこなっています。アメリカの朝鮮への攻撃は言葉だけではなく、金正恩委員長の暗殺計画の訓練をアメリカ国内で実際におこなうところまできていたのです。

ワシントンポスト紙編集主幹であるボブ・ウッドワード氏がトランプ政権の内幕本『恐怖の男 トランプ政権の真実』(2018年9月11日)を出版しました。内幕本のなかで、〝米空軍が2017年10月北朝鮮の金正恩委員長を暗殺するための極秘訓練をおこなっていた。部隊は北朝鮮と地形が似た中西部ミズーリ州の高原、地下施設を破壊するために、高度1500メートルの低空から爆弾が投下されたほか、別の訓練ではアフガニスタンで実際に投下した大規模爆弾が使われた〟と明らかにしています。トランプ大統領は金正恩委員長の暗殺、朝鮮の体制崩壊を実際に企図していたのです。

トランプ大統領の国連総会での演説にたいして、金正恩委員長は2017年9月21日に声明を発表しています。声明のなかで金正恩委員長はつぎのように述べています。

「米国の執権者は情勢の緩和に役立つそれなりに説得力のある発言はおろか、われわれの国の『完全破壊』という歴代のどの米大統領からも聞いたことのない、前代未聞の無知で粗暴ならっぱを吹いた。おびえた犬がさらに大きな声でほえるようにだ。

トランプに勧告する。世間に向かって話をするときは該当する語彙を慎重に選んで、相手をみながらすることだ。

われわれの政権を交代させるとか、(国家)制度を転覆させるとかいう脅迫の枠を飛び越え、ひとつの主権国家を完全に壊滅させるなどという反人倫的な意志を国連の舞台で公然と言ってのける米大統領の精神病的な狂態は、正常の人の物事のすじ道と冷静さも失わせる」

「トランプが世界の舞台にでて、国連の存在自体を拒否して侮辱して、われわれの共和国をなくすという歴代でもっとも暴悪な宣戦布告をしたからには、われわれもそれにふさわしい、史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に検討する」

トランプ大統領の発言をふまえ、朝鮮は従来の核実験やICBM開発にもとづき、11月29日に米国全土に達するICBM発射実験を成功させました。

金正恩委員長は、みずからの発言については責任をもち確実に実行しているのです。

金正恩委員長の発言とあわせて、李容浩外相も2017年9月23日に国連総会で演説をおこない重要な発言をおこなっています。李容浩外相は、国連安全保障理事会がつくりだした反朝鮮演説の不当な内容に関してつぎのように述べています。

〝第1に、国連安保理は、宇宙空間の平和利用を各国の自主的権利であると明示した国際法に違反して、人工衛星の打ち上げをおこなう他国にたいしては問題視することなく、唯一朝鮮にたいしてだけ衛星の打ち上げを禁止するという不法で2重基準的な「決議」をつくりだした。

第2に、核実験禁止に関する国際法がまだ発効していないので、この問題は徹底的に各国の自主権に属する問題であるにもかかわらず、まして核実験をはるかに多くおこなった他国にはひとつも問題視することなく、唯一朝鮮にだけ身勝手に核実験を禁止するという不法で2重基準的な「決議」をつくりだした。

第3に、加盟国の自衛権を認めた国連憲章第51条に反して、各種の新型核兵器をたえず開発している他国は問題視することなく、唯一朝鮮にだけ核兵器開発を「国際平和と安全にたいする脅威」であると罵倒し、それを根拠に制裁を加える不法で2重基準的な「決議」をつくりだした。

このような不当で不公正な決議をひきつづき採択するのは、核保有国である常任理事国が自分らの核独占の地位を守るのに共通の利害関係をもつからである〟

中国もロシアも核兵器保有国です。この時点では、安全保障理事会対朝鮮制裁決議に中国もロシアも賛成していました。

朝鮮は国連をとおして、朝鮮のみを問題視する不当性を明確に訴え、11月29日には核弾頭を搭載できるICBM発射実験に成功するにいたったのです。

2018年1月1日、金正恩委員長は「新年の辞」を発表します。「新年の辞」によって、2017年の極度に緊張した東アジア情勢を一気に平和と和解の方向に導き、「板門店宣言」から「シンガポール朝米共同声明」という流れをつくっていくことになりました。

金正恩委員長は、「新年の辞」のなかで、一心団結の力で並進路線が前進した、アメリカのいかなる核の威嚇にたいしても対応できる核武力を完成したと述べた後、つぎのように明言しました。

「アメリカ本土全域がわれわれの核打撃射程圏にあり、核ボタンがつねにわたしの事務室の机のうえにおかれているということ、これはけっして威嚇ではなく、現実であることをはっきり知るべきです」

2018年は9月9日に朝鮮民主主義人民共和国創建70周年を迎える年でした。金正恩委員長は、共和国創建70周年である2018年、社会主義偉業完成に向けて全力をあげてとりくんでいくよう呼びかけました。

また韓国にたいしても軍事的緊張状態を緩和し、朝鮮半島の平和的環境をともに醸成していこう、そのために韓国でおこなわれる冬季オリンピックに3加し、成功に向けて協力しようと呼びかけました。

金正恩委員長の呼びかけに文在寅大統領もこたえ、同年4月、南北首脳会談が実現していくようになります。

「新年の辞」ではさらに、朝鮮の自主権を尊重し、友好的に対応するすべての国との親善友好関係を発展させ、正義・平和の新しい世界を建設するために努力すると述べています。

2018年4月20日、朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会が開催され、金正恩委員長は報告をおこないました。金正恩委員長は報告のなかで、並進路線が成功し核戦力建設が完成した、国家と人民の安全保障が明確に確立したと指摘し、つぎのように述べています。

〝核開発の全工程が科学的に順次的におこなわれ、運搬打撃手段の開発も科学的におこなわれて、核の兵器化の完結が検証された条件のもとで、いまやわれわれにいかなる核実験と中長距離、大陸間弾道ロケット試射も不用となり、それによって、北部核実験場も自己の使命を果たした〟

さらに、われわれの力をわれわれが求める水準にまで到達させ、わが国家と人民の安全を頼もしく保障できるようになった基礎のうえで、「人類の共通の念願と志向に合致するように核兵器なき世界の建設に積極的に寄与しよう」と提起し、朝鮮労働党の平和愛好的立場について明確にしました。

経済建設と核戦力建設という戦略的路線が提示した歴史的課題が成功裏に遂行されたこんにち、これからは社会主義経済建設に全力を集中して、人民生活の向上、文化水準の向上に邁進していこうと提起しました。

そして自力更生、自給自足を基盤にし、科学技術に徹底して依拠して、自強力をたえまなく増大させて社会主義経済建設をすすめていくという方向を明確にしました。

総会では決定書「経済建設と核戦力建設の並進路線の偉大な勝利を宣布することについて」が採択され、2018年4月21日から核実験と大陸間弾道ロケット試射を中止するということを明確に示しています。また核実験の中止を透明性あるものとしてうらづけるため、朝鮮の北部核実験場を廃棄することも明記しました。

さらに朝鮮にたいする核の威嚇、核の挑発がないかぎり、核兵器を絶対に使用しないし、いかなる場合も、核兵器と核技術を移転しないということも明確に記してあります。

これ以上核実験をおこなわず、経済建設に全力をつくすという考え方は、2018年4月27日の南北首脳会談における「板門店宣言」にもりこまれています。「板門店宣言」では民族自決、大団結で自主平和統一を促進していくこと、軍事的緊張状態を緩和していくこと、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制を構築すること、休戦協定を平和協定に転換することなどが明確にうたわれました。

また朝鮮半島で非正常な休戦状態を終わらせ、平和体制を樹立することは先送りできない歴史的課題であることをふまえて、「北と南は、完全な非核化をとおして核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」としています。

2018年9月18日から20日まで金正恩委員長と文在寅大統領が平壌で南北首脳会談をおこないました。会談後、「板門店宣言」をふまえて「平壌宣言」が発表されました。「平壌宣言」においては、軍事的敵対関係を終息させること、互恵と共利共栄の原則にもとづいて交流協力を増大させていくこと、核兵器と核脅威のない平和な朝鮮半島を実現することなどが確認されました。

「平壌宣言」において、アメリカが韓国に、あるいはその周辺に持ち込んでいる核をすべてなくすという明確な合意をおこないました。平壌首脳会談にもとづき軍事分野の合意もなされました。すなわち停戦地帯においていっさい兵器をおかず軍事演習もしない、さらに全体に拡大していこうということです。

敵対行為はやめるという合意は、当然、米韓の合同軍事演習を中止することも含まれていました。朝鮮を侵略する意図をもって実施されている米韓合同軍事演習は、地域の緊張をもっともあおる敵対行為なのです。金正恩委員長は米韓合同軍事演習を中止するということを、文大統領とのあいだで確認しています。

2018年6月12日、シンガポールで金正恩委員長とトランプ大統領との歴史的な朝米首脳会談が開催され、「共同声明」が発表されました。「板門店宣言」にもとづいて、朝米首脳会談での「共同声明」が発表されているということを再確認する必要があります。

「シンガポール共同声明」において、相互の信頼醸成が朝鮮半島の非核化を促進するという認識が重要です。相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進でき、新たな朝米関係の確立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与することができることを認識しなければなりません。朝鮮半島の非核化というのは、朝鮮だけが非核化するということではなく、韓国も含む朝鮮半島全体の非核化を意味します。朝鮮半島の非核化を信頼醸成によって促進するというのが、金正恩委員長とトランプ大統領とのあいだの合意でした。

「シンガポール共同声明」において、つぎのような内容が確認されました。

ひとつ目に、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国は平和と繁栄を願う両国人民の念願にもとづいて新たな朝米関係を樹立していくことにした、としています。

ここで重要なのは、「平和と繁栄を願う両国人民の念願」(desire of the peoples of the two countries for peace and prosperity)と言っている点です。英語では「国民」はpeoplesとなっています。すなわち新たな朝米関係の樹立というのは両首脳のあいだだけの問題ではなく、朝鮮とアメリカの両国人民が平和と繁栄を念願しており、両国人民の念願に応じ実現するものであると言っているのです。朝米両国人民の念願であるということを明確に認識することが重要です。

2つ目に、朝鮮とアメリカは朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制をきずくためにともに努力する、としています。朝米両国がともに努力することが朝鮮半島非核化の大前提となります。

朝鮮は、朝鮮半島の非核化に向けて一歩一歩確実に前進していくことを提起し実践しています。アメリカは、一歩一歩確実にすすむことをよく理解しておらず、包括的にとらえなければならないと主張し何も実行していません。

「シンガポール共同声明」で確認しているのは、朝鮮とアメリカは、朝鮮半島において持続的で安定した平和体制をきずくことに努力していくということです。朝鮮半島の平和体制をきずくことをふまえて、朝鮮は「板門店宣言」を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを確約したのです。

「シンガポール共同声明」の内容を正しく理解するうえでも、「板門店宣言」の内容をおさえることが重要です。「板門店宣言」では、敵対敵視をやめること、信頼醸成をはかること、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定に転換することなどを確認しました。

2019年2月にベトナム・ハノイでおこなわれた朝米首脳会談では、ハノイ合意は成立せず、成果を得ることはできませんでした。

新たな状況に対応すべく、2019年4月10日、最高人民会議第14期第1回会議において金正恩委員長は施政演説をおこないました。

施政演説では、金正恩委員長は、金日成金正日主義を指導指針にして、朝鮮の実情に即し、自力自強の原則で問題を解決していくことを提起しました。金正恩委員長がおこなった施政演説で決定的に重要なのは人民大衆第一主義です。人民大衆は革命と建設の主人であるということであり、人民大衆第一主義が金日成金正日主義の基本となります。それゆえ金日成金正日主義の本質は人民大衆第一主義なのです。朝鮮労働党の思想の基本は人民を天のごとくみなす「以民為天」です。

施政演説においてまた、国のすべての力を経済建設に集中して社会主義の物質的基盤をうちかためることが必要だと提起しています。

アメリカは制裁解除とひきかえに武装解除を要求しています。武装解除の要求は朝鮮の体制転覆をはかろうとしていることを意味します。当時のボルトン大統領補佐官は、朝鮮の核武装を放棄させ、核に関連する物資をアメリカがひきとるなどと破廉恥な発言をしていました。一気に核武装を解除しなければ、話し合いはそれ以上すすまないと、ボルトン補佐官をはじめとするトランプ政権内のタカ派が朝鮮にたいして要求していたのです。もちろん朝鮮は一方的な武装解除などという厚顔無恥な暴言を拒否しました。

一方、社会主義強国建設をめざす現段階の闘争における朝鮮の中心課題は、すべての国の力を経済建設に集中し、社会主義の物質的基盤をかためていくこととしました。金正恩委員長は、敵対勢力による朝鮮への制裁の強風は自立、自力の熱風で一掃し、自力更生の革命精神で自立的民族経済建設の路線を推進していかなければならないと提起しています。

ここで党と国家の役割のちがいを明確にしていくことが重要なポイントとなります。

党は指導思想、指導指針を提起し、国家、政府は党の提起した指導思想、指導指針にもとづき執行する責任を負っているのです。最高人民会議における施政演説において、金正恩委員長は国家、政府の果たすべき役割を提起しています。国家、政府の果たすべき役割、目標は人民生活、文化の向上ということになります。

南北統一に関しても言及がありました。南には保守勢力が存在し、アメリカが執拗に介入しています。日本とのGSOMIAについても、アメリカが執拗に介入して、韓国政府はいったんはやめるとした決定をくつがえして延期しました。GSOMIAについての対応に、文在寅政権の弱点が顕著にあらわれました。

アメリカは韓国における軍事基地を維持しようとしています。したがって、南北の平和的な交流をとおして平和と和解がすすんでいくならば、アメリカは文在寅政権にたいして、米軍基地にたいする負担を強め、圧力をかけてアメリカの利益に従属させようとします。

朝鮮半島の非核化や朝鮮統一などの問題の基本は、朝鮮、韓国の人民大衆が主体となって民族同士で解決していくということです。文在寅大統領が「板門店宣言」「平壌宣言」に信念をもっているのであれば、アメリカの要求にたいしても拒否できるはずです。民族同士で解決するという基本を守るならば、自主、平和統一、「板門店宣言」、「平壌宣言」の線にもとづいて実現していこうとするはずです。

GSOMIAにしても、韓国の世論調査によると、50%以上、60%近くの人々が破棄すべきだという意見をもっています。文在寅政権は韓国の人民大衆の意向、要求を大事にすべきです。人民大衆の意向、要求を大事にし、実現していくならば、アメリカとかならず鋭い軋轢が生じてきます。人民大衆の意向、要求を最後まで貫いていこうとするならば、文在寅大統領には当然、相当の信念が求められるのです。

日本政府は、アメリカの侵略的な要求に応えながら、南にたいして帝国主義的な支配を維持しつづけようとしています。日本やアメリカの帝国主義的な侵略的企図を打破する力は、結局、民族の統一した力しかないのです。民衆の力を信じ、民族の力を信じ、それを基盤にして「板門店宣言」「平壌宣言」の線を実行していけば、何もおそれるものはありません。

中国もロシアも現在、朝鮮と1体となって、朝鮮半島での戦争を阻止し平和的関係を確立し、停戦協定を平和協定に転換することを全面的に支持しています。

アメリカが韓国に強く介入することによって「板門店宣言」よりまえの段階に戻っています。本来ならば、文在寅政権は民衆の利益を守る当事者として、アメリカの介入を断固拒否し、朝鮮敵視政策を清算しなければいけない立場にあります。文在寅政権は信念をもって、朝鮮半島の非核化、朝鮮の統一を実現するために行動すべきです。

アメリカは依然として、朝鮮にたいしてCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を要求しています。ハノイでの首脳会談でもCVIDを求め、10月の実務者協議でも求めたのです。

一方、韓国はアメリカとの合同軍事演習を再開しています。12月にも朝鮮を武力侵攻することを目的にした米韓合同軍事演習をおこなう予定になっています。また『朝鮮通信』によれば、韓国は生物化学兵器を導入したということです。文在寅政権は、アメリカの圧力や介入を拒否し朝鮮との合意を守るだけの力がないことを露呈しています。

朝鮮は、文政権にたいして絶対に「板門店宣言」「平壌宣言」を推進していかなければならないという立場です。当事者であればあくまでも約束したこと、合意したことを推進する主体にならなければならないのです。韓国の民衆の念願にこたえ、文政権はアメリカの要求にたいして断固抵抗してはねのけていくべきです。

わたしたちも朝鮮の動きに連帯し応援していかなければならないと思います。

施政演説の最後で「敵対勢力の制裁解除問題の類には執着しない。朝鮮政府はわが国の自主権を尊重し友好に接する世界のすべての国と友好と協力の絆を強化発展させる。朝鮮半島で恒久的で強固な平和体制を構築するため世界のすべての平和愛好勢力とかたく手をとりあってすすむ」という立場を明確にしています。


2、金正恩委員長のゆるぎなき確信の根拠
金日成金正日主義


⑴ 金日成金正日主義は「革命と建設に関する理論と方法の全1的体系」


金日成金正日主義については、朝鮮労働党創立70周年に際しての金正恩委員長の著作「金日成金正日同志の党の偉業は必勝不敗である」で再確認していく必要があります。

また朝鮮労働党第7回大会中央委員会報告の第2体系「社会主義偉業の完成のために」のなかで、全社会の金日成金正日主義化が提起されています。

2019年4月10日、最高人民会議第14期第1回会議の施政演説で再度、金日成金正日主義について確認されています。

金日成金正日主義は、「革命と建設に関する思想、理論、方法の全1的体系」です。革命と建設の理論、戦略も含めた基本方針、それらを実現していく実践の方法の全1的体系であるという定義づけをしています。

重要な点は朝鮮の実情に即して革命と建設をおしすすめなければならないということです。他国で成功した事例をまねて、何も考えずに導入するという教条主義におちいるならば革命と建設を台なしにしてしまいます。

金日成主席や金正日総書記は、国際情勢を正しく分析しながらも、何よりも朝鮮の実情や世界における朝鮮の位置、政治的経済的な状況、さらに大衆が求めている内容に即して、社会主義建設をおしすすめてきました。実情に即していくということは、徹底して教条主義、事大主義を拒否するということです。

実情に即して革命と建設をおしすすめていくうえで基盤になるのは、「以民為天」の思想です。「民をもって天となす」という思想にもとづくならば、人民大衆が何を求めているかを知り、人民大衆の実情に即して実践していくことが決定的に重要なポイントになります。

また社会主義革命と建設における人民大衆の思想意識の決定的意義について提起しています。自分の行動を自分が意識し自覚しておこなうのではなく、付和雷同して何も考えずに、みんなが動くのとあわせていっしょに動くというのでは主体になることはむずかしいといえます。

社会主義革命と建設の主人は人民大衆です。人民大衆が社会主義革命と建設の真の主人になるためには、金日成金正日主義をみずからのものにしなければなりません。意識して実践をおこなっていくことは、金日成主席が一貫して強調していたチュチェ思想の基本です。みずからが意識して目的を実現するために実践していくことがなければ、社会主義の発展はありえません。

資本主義社会にはブルジョア的拝金主義が蔓延しています。資本主義社会に生きるかぎりカネの魅力に人間性が麻痺させられてしまいます。カネをもっていれば何でも買って手にはいると考えてしまうのです。社会主義社会でも市場経済が導入されると、拝金主義思想がはびこってきます。拝金主義というのは利己主義で、社会のことはどうなってもかまわず、カネでもって自分の好きな物を手に入れようとする思想です。

ソビエトのゴルバチョフ書記長は市場経済を認め導入していきました。そのうえ、多党化を認めました。市場経済を導入すると社会主義体制が崩壊してしまいました。 

資本主義市場経済を導入した中国でも、こんにち拝金主義が横行しています。習近平主席は社会に蔓延する資本主義思想に対抗するため、毛沢東思想をもう1度人民大衆のものにする必要があると唱えています。しかし、1度拝金主義におちいってしまった人々が、拝金主義の思想からぬけだすことは容易ではありません。中国の金持ちは中国共産党の統制をきらい、思想的な党の弾圧から逃れるためだと言いながら中国を脱出し外国に移住するようになっています。

朝鮮は市場経済、資本主義導入にともなう拝金主義思想などの腐敗した資本主義思想を絶対に拒否します。

労働者、人民大衆は人間として生きる基盤である生活と生産的基盤に即した思想を確立しなければならないのです。利己主義を強調して、他人とあらそっていくならば、人間生活、生産活動自体が成り立たなくなってしまいます。

人間同士が協力共同、団結連帯関係を結んでいくことが真の人間社会をきずく大本となります。人民大衆が社会の主人であるという思想をみずからのものにすることによって、主人としての真の自覚意識をもつことができ、社会の主人としての行動ができるのです。人民大衆が社会の主人であるという思想意識をもつことが金日成金正日主義の基本となります。

人民大衆が1枚岩の団結連帯を形成するためには、党の指導が不可欠です。しかし党の指導を実現するためには、党がみずからの思想を不断に点検し是正することが必要となります。

わたしたちも大衆運動をとおして、チュチェ思想の真理性を自己のものにしていかなければなりません。それぞれの人間は未熟であっても、実践をとおして鍛えていくならば、チュチェ思想の真理性をみずからのものにしていくことができるのです。

党が人民大衆にたいして、この思想でなくてはいけないと権力的に強制していくならば真の団結連帯を形成することはできません。スターリンは、権力的に党の利己的な要求を人民大衆に強制していきました。党の一方的な要求を人民大衆に強制したことがソビエト社会主義崩壊の根本原因のひとつとなりました。

重要なのは、大衆の自覚を喚起するということです。社会の主人としての自覚をもつ思想意識は自然発生的に獲得しうるとはいえません。したがって人民大衆自身が社会の主人であり、新しい歴史をきり拓く存在であることをまず自覚させることが党の重要な役割となります。

朝鮮では、党の思想的組織的指導が貫徹されることによって、領袖、党、大衆の思想意識的団結、一心団結が確立しています。一心団結こそ朝鮮式社会主義の威力の根源となっています。

朝鮮がつくりだした核戦力の威力も、人民の団結力、一心団結の力によって確立しえたといえます。人民大衆の一心団結の力に勝るものはありません。

人間の組織力、団結力が朝鮮の指導思想の基礎にあります。


⑵ チュチェ思想の普遍性の確信


金日成金正日主義研究会は、何よりも会員自身がチュチェ思想の普遍性をみずからのものにすることに基本課題があります。

人間の思想は多様です。各人の思想を活かすことは必要ですが、どのように人間をとらえて、その思想を正しいとするのかという問題があります。

人類の歴史がはじまって以降、ギリシャ時代、ローマ時代をはじめ歴史のなかで、さまざまな思想哲学が唱えられてきました。以後、封建制から資本主義社会へと歴史が流れていきます。

現在においては、世界に資本主義がはびこっており、多くの人々がもつ常識的な思想は金権思想、拝金思想となっています。資本主義社会においては、日常的に人間の欲求が金銭欲となっており、カネをいかにふやすかということが人々の最大の関心事になっています。しかし、カネをふやすことが人間本来の要求ではありません。むしろカネの奴隷にされてしまった人間のみじめな姿を示しています。

わたしたちが生活や活動の基盤にすえるべき思想の根拠は何でしょうか。

人間が人間として生きる基盤、「生の基盤」は厳然として存在します。人間が人間として生きる基盤とは、それを欠いたら社会が存立発展しえないものです。人間が人間として生きる基盤は人間の生活であり、人間は生活をとおして向上していくのです。人間の生活をきちんと維持確保しなければならないのです。

朝鮮の社会主義建設の目標は人民生活の向上にあります。人民生活を向上させるために人民大衆が共同連帯していくことが人間の基本的な思想であり、人間思想の基盤となります。

生きる基盤のなかに、人間の人間としての本質があります。人間の人間として生きる基盤は人間生活です。家庭の生活、地域の生活を守る根拠は何でしょうか。

人間の行動、労働です。人間は労働によって生活必需品の生産をおこないます。また生活必需品の生産だけではなく、人間として生きるために必要な精神的富である教育、福祉、医療、文化活動などもおこないます。生活必需品の生産や精神的な富である文化活動がまさに人間をささえている根拠です。

1人ひとりの労働者は、どのような思想をもって行動していくべきでしょうか。

自分自身の行動に責任をもちながらも、同時に他の人との協力連帯をきずいていかなければなりません。おたがいが信頼関係をきずくなかで、おたがいの行動を尊重し、認めあいながら、協力共同していく必要があります。そこに人間の人間としての行動があります。

人間の人間としての行動が人間社会の生存の根拠、発展の根拠だととらえる思想がチュチェ思想なのです。チュチェ思想は、人間が人間として生き活動する生の基盤、生きる基盤にもとづいて人間の本質をとらえています。

チュチェ思想は、朝鮮だけにあてはまる思想ではありません。日本を含めてどの国においても、わたしたち自身の基礎になる活動の基盤にもとづく思想であり、それゆえ真理性、普遍性をもっているのです。

意識にうらうちされた自主性、創造性、共同連帯が人間の本質です。人間の本質についてチュチェ思想では、社会的本性という言葉を使っています。人間の本性は、どのようにITが発展しようが、物や技術によっておきかえられるようなものではありません。

社会の存立発展の主人である人民大衆中心の思想がチュチェ思想です。


⑶ 「平和は社会主義の本性的要求」


これまで人類の生きてきた社会は階級支配の社会であり、人間のあいだで不平等が当然のごとく存在している社会であり、人民大衆の主体性は実現されませんでした。

人民大衆が社会の真の主人となる人民大衆中心の社会こそが社会主義です。まさに朝鮮が確立しようとしている社会主義です。

社会主義は、自覚した人民大衆がたがいの信頼のもとでの共同連帯、平和な社会関係を実現するなかで発展します。

これは「平和は社会主義の本性的要求である」ということの基本的な意味です。平和は社会主義の本質にもとづいた要求であるということを理解しなければなりません。

朝鮮が世界人民に向けて東アジアと世界の平和をきずくことを提起できる根拠は、朝鮮が社会主義体制を堅持したことにあります。朝鮮は社会主義体制を根拠として、世界において核廃絶を現実のものにしようとしています。

(2019年11月23日)