沖縄の反戦平和のたたかいとチュチェ思想
沖縄大学名誉教授 平良研一

日本学術会議にたいする危険で不当な介入

2020年9月、日本学術会議が推薦した会員候補のうち、優秀なメンバーの六人を菅義偉首相が任命を拒否するという異常な出来事がおきました。

中曽根康弘元首相は歴代の首相のなかでもタカ派と言われましたが、その中曽根氏ですら学術会議の人選には口をはさまなかったと言われています。中曽根氏はかつて日米同盟のもとで日本全体を不沈空母にすると発言し、大きな問題になりました。中曽根氏は101歳で2019年11月に亡くなりました。最近、おこなわれた中曽根氏の内閣・自民党の合同葬儀に際して、文部科学省が国立大学に弔意を表明するよう要望を通知したことで再び問題になりました。

 中曽根氏が日本学術会議に口をはさまなかったのは、戦前・戦中の国家体制のもとで、軍部が政治を主動し、学問・教育の自由などの人権が抑圧されるさまざまな出来事があり、戦争に突入していったという彼自身の苦い経験があるからでしょう。かつての戦争を反省して、戦後民主主義のもとで平和な国家、社会をささえる学問研究の自由を憲法で保障するようになりました。学問研究の自由を抑圧するというのは、戦前の軍国主義の問題が背景となって、保守政治家にとっても、鬼門であったと思います。

 ところが戦後生まれの安倍晋三前首相や菅首相は、戦前の悲惨な経験から何も学んでいないかのように、戦後民主主義や平和主義に目をつぶり、たとえば敵基地攻撃を正当化し、従来の専守防衛を堅持するということも無視しています。

 戦後日本が大切にしてきた民主主義や平和主義を軽視する傾向の延長線上に、今回の日本学術会議が推薦した会員候補のうち六人の任命拒否があるといえます。任命権者であることを利用しながら、彼らの意にそぐわない候補が会員になることを拒否しています。

 拒否した理由を問われたとき、菅首相は総合的、俯瞰的な観点から不適格という判断をしたと言いました。総合的、俯瞰的とはどういうことなのかわかりません。総合的、俯瞰的にみてどういうわけで不適格なのかということは、まったく明らかにできないし、していないわけです。

 菅首相は、相変わらず曖昧な言い方で明言を避けています。六人の候補者のなかには、安保関連法制は憲法違反であると主張したり、安倍前内閣の時期に反憲法的な政策にたいして国会の場でも異を唱えたり、あるいは警鐘をならしている人たちが多くいます。菅首相は学術会議の会員を任命する機会に、政府に逆らうと会員にはなれないという予断をあたえるための、言わばみせしめにしたのではないかと考えられます。

 今回のような学問の自由への露骨な介入は、戦後はもちろんありませんでしたし、今回が初めてのことです。今回の菅首相の任命拒否は、確信犯的な行為ではないかと思っています。

 日本は従来、大学での研究が武器の開発や軍事と結びつくことには冷淡であると思います。しかし大学内の研究を軍事へと向かわせる誘惑もあり、実際に大学内の研究が軍事と結びついたものが皆無とはいえないでしょう。それでも学問と軍事が結びつくことには大学側の抵抗があるといえます。

 今回の任命拒否は、学問における平和主義的で反政府的な傾向を除去するような意図を感じます。

 日本の国家予算においては、大学の研究機関にたいする学術研究費はたいへん少ないのです。ですから防衛省関係の財政補助の誘導にのせられる可能性は常にあります。

 アメリカは、産軍学共同がしっかり結びついていますが、日本は大学と軍需産業の結びつきが弱いのです。もちろんアメリカの産軍学共同といっても、研究そのものにたいする介入はあまりありません。研究自体は比較的自由であり、資金を気前よく拠出します。そのほうが結局は防衛の強化にも貢献し、国民のためになるという考え方です。アメリカの場合はどちらかといえば、産軍学共同が悪しざまに言われることが多いのですが、こと研究の内容に関しては鷹揚で、自由に資金を提供する傾向があります。

 ところが、日本の場合は学問研究に陰湿なかたちで介入がおこなわれ、研究の自由が阻害されるのです。この介入が今回の人選拒否にみられたわけです。

 そうはいっても、防衛予算にしめる大学での研究支援費用は、実際はたいへんみえにくいのです。今回は露骨な形で介入がなされ、本質が明らかになったけれども、社会の仕組みが極度に複雑化、多様化していることから、防衛省側の学問研究にたいする介入がどのようなかたちでなされているのかということについて、判断することはなかなか困難です。今回のような政府の意図的な介入が、国家の平和や歴史的な方向、あるいは真理をゆがめるものであるということをしっかり認識して、関心をもっていかなければならないと思います。

 学術会議の会員候補任命拒否の問題は、いまだ解決していません。菅首相は理由を説明していないことは明らかです。答弁するとまた問題が噴出するため、答弁していません。本当のことははっきりしていますが、首相は絶対に言わない姿勢をとっています。菅首相は安倍前首相から引き継いだ手法で、問題をあいまいにして逃げの一手をうっています。きちんとした説明がなく強引にすすめる菅首相のやり方は、今後、大きな問題になるでしょう。

 今回の任命拒否の問題は、大学や全国のすべての研究機関、あるいはわたしたちの会議などにも何らかの形で影響してくる可能性があります。

民衆第一主義で社会主義建設をすすめる朝鮮労働党

朝鮮労働党は、2020年10月10日、創建75周年を迎えました。日本においても、東京で、朝鮮労働党創建75周年を祝賀し「チュチェ思想と自主・平和のためのセミナー」が開催されました。

 セミナーのはじめに各国からのメッセージが紹介されています。自主と平和を求める動きが世界の流れになり、自主の道を歩む朝鮮に内外の関心が高まっていることを示しています。10月10日のセミナーで配布されたパンフレットにも、世界各界各層の人士より寄せられたメッセージが掲載され、いろいろな立場からの見解が述べられています。セミナーの主催者より依頼され、わたしも、短いコメントですが「民衆第一主義で社会主義建設をすすめる朝鮮労働党」と題するつぎのような内容の祝賀メッセージを送りました。

 現在、諸々の困難が立ちはだかるなか、つまり世界を席巻する新型コロナウイルス感染症もまだ終息せず、さらに猛威をふるう状態にあり、世界の情勢もコロナとともに非常に混迷を深めている状況にあって、苦難の歴史をたどった朝鮮労働党の足跡をふりかえることは、重要な意義をもつものと考えます。

 周知のように、朝鮮労働党は、日米帝国主義とのきびしいたたかいのなかで、その輝かしい勝利を得て結成されました。朝鮮労働党は、個人主義の支配する資本主義ではなくて、人民大衆がそれぞれ備えている能力を存分に発揮し、おたがいに助けあい、協力しあう朝鮮独自の社会主義をきずくためにたたかってきました。

 すなわち朝鮮は、あくまでも党の指導のもとに労働者階級が主人公となる人間性豊かな社会主義をずっとめざしてきました。  そして、それを指導する労働党は、ソ連、東ドイツ、チェコスロバキア、ルーマニアなど、いわゆる東欧社会主義がおちいり、崩壊する原因の一つとなった官僚主義を否定し、克服し、人民に奉仕し人民とともに歩む党の組織運営の方針を堅持してきました。

 この基調はチュチェ思想にもとづく人間性豊かな社会主義をめざすものです。すなわち硬直した教条主義を克服して、柔軟で社会性豊かな人材を育むこと、すなわち人間の属性であるところの、ある意味ではまた可能性ともいえる自主性、創造性、意識性を育てることであり、チュチェ思想で武装された社会主義であるといえます。

 このような社会主義社会をめざし、朝鮮労働党は七五年という年月を、金日成主席、金正日総書記、そして金正恩労働党委員長と思想と指導業績を発展的にうけ継いで困難な国際情勢のなかで確固とした戦略を貫き、アメリカ帝国主義と対等に渡りあってきました。

 その自主をつらぬく姿勢は金正恩委員長の現在の政治姿勢にみることができますし、また予定されている第八回党大会に向けてつぎのように述べている言葉にもうかがい知ることができます。

 「国のすべての機関は党の基本路線と政策、決定から脱線しないように活動状況を定期的に総括しながら、よい成果は積極的に奨励し、あらわれた欠陥は是正し対策をとることによって克服することで革命と建設、党の強化発展において新たな前進を遂げなければならない」

 このように強調することに委員長の並々ならぬ決意をうかがうことができると思います。

 このような歴史的に継承されてきた、自己の前進する要求を鮮明にうちだした戦略は、現在、日米政府の戦争政策と真向からたたかう日本、沖縄の人民大衆の反戦・平和のためのたたかいに大きな示唆と励ましをあたえるものであります。

 とくに辺野古のたたかいなどに本当に大きな励ましをあたえていると思います。現自民党政権の屈辱的な対米従属政策を批判し、日本の真の自主・独立を達成するためにチュチェ思想は有力で力強い武器となるものです。何よりもアメリカをはじめ帝国主義諸国のバッシング、経済制裁に抗して信念を曲げない朝鮮の不屈の政治姿勢に学ぶことは多いと思います。

 現在アメリカをはじめ世界にとって歴史を継いであらゆる困難に立ち向かっている社会主義朝鮮にたいし、あるいは疑いの目でみる向きもありますが、決して目を離せない存在となっていることは確かです。

 それは真正のまっとうな社会主義国家建設をめざして邁進する朝鮮労働党の底力を誰も無視することはできないからです。  この内容は言葉足らずではありますが、わたしの考えていることを簡略に述べておきました。

チュチェ思想に学びたたかいをきり拓く

2020年9月から10月にかけてたてつづけに台風が朝鮮半島を襲い猛威をふるいました。朝鮮では被害が甚大におよび、金正恩委員長は被災地を視察し、人民軍や平壌の党員に呼びかけ、復旧対策を講じました。金正恩委員長は、10月10日、朝鮮労働党創建七五周年閲兵式において演説をおこないました。ひじょうに奮闘している労働者にたいして、激励の意味をこめて感謝の挨拶を述べ、努力と真心が足りず人民が生活上の困難を脱することができていないと責任者としての謝罪を述べています。帝国主義国では、金正恩委員長の演説にたいして、朝鮮をめぐる情勢と結びつけ、いかにも朝鮮があやうい状態にあるのではないかというような報道をしています。わたしは、金正恩委員長がひじょうに真摯な態度で演説をおこない、しかも民衆に向けて力強く心のこもったメッセージを伝えていると感じ、とても印象にのこりました。

 朝鮮のコロナ禍への対応は、たいへん緊張した状態がつづいているようです。朝鮮は社会主義体制のなかで、全社会的範囲で指導者と党と人民が一つとなり闘争し、感染者をいまも一人もだしていません。朝鮮の動きを注視していくことは大事なことです。  日本では、安倍政権から菅政権に移行しましたが、依然として多くの問題が解決されないままです。デジタル化や脱ハンコ問題などをとりあげ、肝心かなめの問題から目をそらしています。民衆をごまかしていることにたいして、みる目をもたなければ、このままひきずられていきかねません。

チュチェ思想に学び、主体をうちたて、沖縄と日本のたたかいをきり拓いていきましょう。

(2020年10月17日)