チュチェ思想を日本社会の現実に活かす

神戸市外国語大学名誉教授
家 正治

2月6日、静岡で朝鮮労働党第8回大会の報告会として「チュチェ思想と日朝友好 向春の集い」がおこなわれ、コロナ禍にもかかわらず全国から多くのチュチェ思想研究者が参加しました。集いは第8回党大会において金正恩同志が党総書記に就任したことを祝賀する意味もこめておこなわれました。

集いでは、朝鮮大学校准教授の李泰一先生が「朝鮮労働党第8回大会の基本思想と特徴」と題して講演しました。2016年5月の朝鮮労働党第7回大会以降5年間にわたって朝鮮がどのようにたたかったのかということについて、たいへん熱をこめて話されたことが印象的でした。講演では、世界の動きのなかで朝鮮がどのように社会主義建設をおしすすめてきたのか、そこにチュチェ思想がどのように貫かれているのかということについて提起されました。

芸術公演もりっぱにおこなわれ、意義あるひと時を過ごしました。

民衆第一主義をかかげて社会主義建設をすすめる

長期にわたる「制裁」、自然災害、コロナ禍という客観的にはきびしい状況のなかでも朝鮮は平和を守り、コロナ感染者を一人もださないようにして、自力で、人民の力に依拠して社会主義建設をすすめてきました。

いま朝鮮は民衆第一主義をかかげています。

民衆第一主義は、民衆を革命と建設の主人とみなして民衆に依拠し、人民のために滅私奉仕する政治理念です。金正恩総書記は2019年4月12日の施政演説のなかで、一生涯人民を天のごとく信頼し、人民のためにすべてをささげてきた金日成主席と金正日総書記の以民為天の気高い思想と志を継承して体するため金日成金正日主義の本質を民衆第一主義と定式化し、チュチェの人民観、人民哲学を党と国家の活動に具現することを重大事としてうちだしたと述べています。

金正恩総書記は今回の党大会において、民衆第一主義政治を具現すれば、不利なすべての主観的・客観的要因を克服し、社会主義建設で提起される膨大な課題を容易に解決できるということが総括期間に再実証された哲理であると強調しました。そして「以民為天」を「一心団結」「自力更生」とともに党大会のスローガンとして提起しました。

党は人民のために滅私奉仕し、人民は党に自分の運命と未来を全的に託し、真心をつくしてつかえるところに民衆第一主義の具現された朝鮮社会の優越性があります。

日本国憲法でも「主権在民」を謳い、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」となっていますが、多くの人々の権利が守られているとは言い難い現実があります。

リンカーンは「人民の、人民による、人民のための政治」と述べました。しかし、こんにちのアメリカの社会状況を見ると人種差別の問題など人民のための政治がおこなわれているとはいえません。

朝米関係において原則的立場を強調

本年1月、アメリカは、トランプ大統領が任期を終え、バイデン大統領が誕生するという大きな変化がありました。老いたりといえども、世界の中で依然としてアメリカが影響力を行使しており、アメリカの力を正しく見定めていくことも大事だといえます。

党大会報告のなかで、金正恩総書記はアメリカについても言及しています。

「報告は、アメリカで誰が権力の座についてもアメリカという実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらないと指摘し、対外活動部門で対米戦略を策略的に樹立し、反帝自主勢力との連帯を引き続き拡大していくことについて強調した」

朝鮮は75年以上にもわたり、アメリカと対峙し、戦争もおこない、悪辣な封鎖と圧殺策動をうけ、長期にわたる「制裁」をうけていることから、アメリカ帝国主義にたいする幻想をいささかももっていないことは明らかです。

朝鮮は、新たな朝米関係樹立のキーポイントはアメリカの対朝鮮敵視政策が転換するところにあると述べています。朝鮮の核は、防衛のための核であり、統一のための核であると明言しています。

米韓軍当局は、米韓合同軍事演習を3月に実施すると言い、アメリカ大統領やその周辺の人々は、朝鮮の核は依然として世界の脅威である、対朝鮮政策を見直さなくてはならないなどと騒ぎたてています。

金正恩総書記は以前から、敵に侮らせない、侮れば代価を支払わせる軍事力をもつことを明言しており、軍事力強化の歩みをいささかも止めないことを明らかにしています。

わたしはバイデン氏が大統領に就任して、アメリカの朝鮮政策においてはトランプ前大統領とちがった側面が出てくるのではないかと思っていました。しかし朝鮮は思っている以上にアメリカの対朝鮮政策を現実的、原則的な立場にたってみていると感じました。

自主をうちたてて統一する

2018年に金正恩総書記と南朝鮮の文在寅大統領は3回首脳会談をおこない、共同声明を発表しました。文大統領は平壌で大歓迎をうけ、市民の前で演説して白頭山山頂にも登りました。

にもかかわらず、米韓合同軍事演習はつづけておこなわれ、金剛山観光、開城での共同事業もすすまず、結局、2020年6月、共和国は開城にある南北共同連絡事務所を爆破するという事態にまでいたりました。

朝鮮の統一は、1972年7・4共同声明の通り、自主・平和統一・民族大団結の三原則にそってすすめなくてはならないでしょう。

党大会で金正恩総書記は、北南関係にたいする原則的な立場をつぎのように明らかにしました。

「北南関係で根本的な問題から解決しようとする立場と姿勢を持たなければならず、相手に対する敵対行為を一切中止し、北南宣言を慎重に受け止め、誠実に履行しなければならない」

北南関係の回復は全的に南朝鮮当局にかかっており、共和国から善意を示す必要はなく、南朝鮮当局がどう動くかによって対応することを明らかにしています。

わたしは文在寅大統領を当初は高く評価していました。文在寅大統領は、金大中元大統領、廬武鉉元大統領よりもいっそう統一に向けた動きを前進させたと思いました。しかし、アメリカとの関係で自主をうちたてることができるかどうかが鍵だといえるでしょう。

チュチェ思想を実践に活かす

日本の今後のあり方、とりわけ新型コロナウイルス後の社会の秩序がどうあるべきかについて、わたしたちも理解し改善していくよう努力することが求められていると思います。

朝鮮労働党第8回大会の報告を深め、日本を自主化するための活動に活かしていくことが大切だと思います。

わたしの座右の書は、半世紀以前から、19世紀のドイツの法律学者であるイェ―リング(1818~1892年)の『権利のための闘争』です。

『権利のための闘争』には副題として〝闘争のなかに汝の権利を見出せ〟という言葉がつけられています。また冒頭には、〝法(権利)の目標は平和であり、そのための手段は闘争である〟というように書かれています。〝闘争のなかに汝の権利を見出せ〟というのは、わたしがひじょうに大切にしている言葉です。

さらにまたイェーリングは〝権利のための闘争は個人の社会に対する義務であり、また地方自治体はそれにたいする義務が設けられている〟という趣旨のことも述べています。

日本国憲法にも、憲法に定めている権利については、国民、民衆の力によって保持し実現していく必要性があることが書かれています。

憲法12条では、自由・権利の保持義務、濫用の禁止、利用の責任がつぎのように定められています。

「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」

天皇をはじめとする為政者においても憲法尊重擁護を義務づけています。政治をつかさどる者にたいしても日本国憲法九九条でつぎのように定めているのです。

「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」

日本国憲法が保障する自由及び権利は国民の不断の努力によって守り発展させていかなければならないのです。

ここで学んだ内容を日本や世界において活かしていかなければならないと思います。勉強したことを骨肉化していくことが重要です。どのようにりっぱな文章であれ、そのまま置いておくだけでは、実現あるいは拡充、深化していかないわけです。

学んだことをそれぞれの地域や職場で活かし広げていただきたいと思います。

(静岡での2月6日挨拶と大阪での2月27日挨拶を整理したものです)